仏(ほとけ)と言われる私のエッセイ

テーマはバラバラですが、ちょっとしたことを私なりに掘り下げて書いています。喜怒哀楽のある豊かな今後に向けて想いを綴りました。最初は音楽紹介から入りましたが、少しづつ変化してきたのでブログタイトルも変更します。

中小企業での面接の心得 ーその2ー

面接の心得というタイトルとしたが、どちらかというと、経営者の面接を直接受けた後の考え方について考えてみた。

今日我が社の東京営業所にある女性が面接に訪れた。ちょうど私と同じ年で今年41歳になるが、ある事情があり、うちの仕入先からの紹介で、うちの社長と直接面接することになったそうだ。
 
その方の京都の叔父がある印刷会社を経営してており、その会社をその女性が継ぎたいというのだ。ただし、印刷の現場については全くの素人であり、現場修行ができる会社を探していたところ、うちの社長に相談してみようということになったらしい。
 
うちの社長は、話始めるや否や、彼女に対しまだまだ覚悟ができているようには思えないということを簡単に自身の体験談を交えて説明していた。
 
ポイントは以下のような内容だった。
▪️ 叔父さんの後を継ぎたいという想いはわかるが、家族の同意を完全に得られていないようでは、単なる思い付きとしか言いようがない。
▪️今の叔父さんの会社が年商10億を越えないような規模なら、今後の継続は難しいと思う。
▪️今の重要顧客をどこまで理解をしていて、今後うち学んだスキルでどのようにして活用していきたいのか、具体性が何もない
 
とまあ、つまるところ、商売を継いで自分自身でやっていこうとするには、思い付きの域を出てなさすぎということなのだ。彼女自身もそんなことは言われなくてもわかっていたと思うが、開口一番ストレートに言われたことで、逆に肩肘張らずに素直に胸を借りようと思っただろう。
 
話にはまだ続きがある。うちの社長は神様が大好きで、気学をかなり勉強している。毎月1日と15日は社命として、近隣の一宮に参拝することを義務づけている程の熱の入れようだ。社長曰く、神様はお金や幸運を直接もたらしてくれるのではないが、「縁」をもたらしてくれるものだそうだ。
ちなみに気学というのは、統計に基づいたものであり、あながちオカルトというわけではないそうだ。
 
また、同時に社長は、彼女の生年月日や諸々の条件から、これまでの歩みや、性格などを分析し彼女のこれまでの40年がどのようなものであったかを、気学の観点から説明した。それを聞いた彼女は、自分のこれまでの人生を言い当てられたような気持ちになったのか、半ば号泣の様相だった。そして社長の言葉を迎合するにように、「これまでいいことなんかなかったんです!」と少し感情的に想いを吐露した。
 
彼女のその時の気持ちはよくわかる気がする。これまでの社会人生活は、まがりなりにも一本筋の通ったものではなく、どちらかというとフラフラと彷徨ってきたのだ。TOEICは900点レベルの語学力がありながら、何かに生かしているわけではなく、飾りになってしまっている。そんな彼女がこれまでのモヤモヤを払拭するための起死回生の策が、叔父さんの後を継ぎ、一国一城の経営者になるということだったのではないかと思う。
 
涙ながらに素直に社長の言葉を受け入れた彼女を、社長は可愛く思ったのだろう。その後は懐の深さを見せて、「俺が面倒見てやるから一旦はうちに来なさい。たくさんの給料を払うことはできないが、食べていけるぐらいのものは出せる。ここで1年間営業の勉強をしなさい。」ということになった。
 
横で一部始終を聞いていた私としては、少し複雑な気持ちになった。多分彼女はこれまでの自分の人生に納得がいっていない。このままではこの先何かの展望が開けると思っていない。だから今何かを変えるべく行動を起こしているのだ。これまでも何かにうまく行かなくなったり、行き詰ったときに何かと行動を起こし、新しい未来にチャレンジしてきたのだろう。そのチャレンジ精神は評価したい。できることなら、うちの会社にきて、将来の独立を見据えて生き生きと働いて欲しいとも思う。
 
だが一方では、今日の社長の話を一旦持ち帰って客観的に見直してみてほしいとも思う。社長としては、うちにくれば面倒を見てやると本気で思って発言しているのだが、聞いている本人としては、それを真に受けてはならないということだ。うちにくれば、毎日社長がそばで手とり足とり面倒を見てくれるわけではない。時々相談に乗ってくれるかも知れないが、基本的には自力でなんとかしなければならない。
 
だが、今日の話の流れからすれば、彼女は自分自身の想いだけで決断するというよりは、社長(わが社で一番の権力者)が自分引き受けてくれるということを理由に決断してしまう危険性をはらんでいる。つまり、極端にいえば他人の言動に、自分自身の大きな決断を委ねてしまうことに他ならないのだ。そうなれば、鳴り物入りで入社したものの、うまく事が運ばなかった際に、社長のせいにしてしまいかねないのだ。こんな例はいくつもみてきた。人はみなやはり自分が可愛いから何かうまくことが運ばなかった時、自分自身ではなく、周りにその原因があると思いたがるものだ。
 
今彼女が意見を求めるのは、今日初めて会ううちの社長ではない。むしろ自分自身のこれまでの人生の中で最も尊敬できるか、最も信頼できる人の助言だ。それがないなら、人の意見は人の意見として感情的にならずに客観的に聞きいれて、後は自分自身がどうしたいか、それだけだ。

現状をガラリと変えたくて、思い切って行動を起こした時、動機が曖昧であればあるほど、ちょっとした逆風に負けそうになる。逆にこんな自分を率直に受け入れてくれるような存在は、本当にありがたいはずだ。それが企業の経営者ならなおさらのこと。

彼女に今必要なことは、決断をいそがず、感情的になった自分自身を一旦クールダウンし、改めて社長の言葉を冷静に受け止め、自分自身がどうしたいのか考えた上で、自力で決断することだと思う。そして決断した後は、自力でなんとかしなければならないことを悟ることだと思う。


いつもながら長文になってしまいましたが、読んでくださりありがとうございました。