迷い ー仕事の上での思考の整理ー
メインのお客様に対して大型のスポット商品向けのパッケージを提案する時期がやってきた。前回のクリスマス企画は残念ながら外れてしまったため、今回は何としても獲得したいと思いそれなりに準備してきた。
先週の金曜日に準備したものを見てもらうためにアポのメールを入れたら、担当者からすぐに携帯に連絡があった。まだ何も決定はしていないが今回はアフターユースを意識した包材にしたいから、前回のような不織布ではなく、生地を縫製するようなものを検討したいという内容だった。
元々事前に準備していたのは、前回とは違う素材感のある不織布だったので、この話を聞いた時、提案する内容は的外れであることが判明した。よって土日も含め急ぎ別の提案を検討すべく諸々の情報収集、たまたま私の奥さんが洋裁好きということもあり、提案できそうなものが幾つかあったので、それに関連する材料や加工先等の確認、パートナー以外の業者などをあたり、短時間でなるべく多くの情報を集めた。
そして昨日夕方、先方の担当者に集めたものを提案に伺った。くどくどそれぞれを説明せず、大風呂敷を広げて準備したものを見てもらった。結論的に私が個人的に今回の企画で推したい素材については今ひとつの反応だった。今回の課題「アフターユース」について、考え方の方向性はあっているものの、具体的な形になっているものが少なかったために、お客様のイメージに響かせられなかったからだ。
先方の担当者は、社内での発言力が大きく、提案内容がはまればそのまま提案の内容を大きく変えずに進行することが多い。前々回とその前はうまく提案が通りかなりスムーズに進行した経緯があり、私自身ポイントは把握していると思っている。よって今回の初回提案でうまく担当者の感性に響かせることができれば他社よりはかなりのリードを保つことができたのだ。だが昨日は明らかに準備不足だった。
提案力を評価いただいていると思っていたので、今回の私の提案は、先方の担当者としても残念だっただろうと思う。提案の直前で提案内容を大きく変更したとはいえ、結果は結果だ。
今回の企画でお客様が求めるものは、布地を縫製して作ったものという事になるのだが、縫製品の場合製造コストの問題から、中国やベトナム、バングラデシュ等で生産するのが一般的だ。アパレル関連の企業などは製造コスト削減のため、10年ほど前からベトナムに進出している。さて、うちの会社としては食品会社向けのビジネスがメインであり、不織布を扱うことは多くても、布地を縫製するというニーズはない。それらのものは食品向けの包材にはコストがかかりすぎるためだ。当然ベトナムでそれらのものを製造委託できるようなパートナー企業はない。たまたま私が布地の種類や縫製について個人的な興味もあり、お客様以上の知識があるから、製造を委託するルートがあれば良いものを提案できるというだけなのだ。
多分これまでの私なら、お客様の要望に応えたいがために一生懸命海外の委託先探しを始め、現物を確認しそれなりのものを形にできるよう頑張ると思し、それはそんなに難しいことでもない。ただ、今回は以下の理由から少し迷いが生じている。
▪️この企画を元に、新しく海外縫製品という商品群を手に入れたとしても、横展開できるような既存の得意先が見当たらない
勿論アパレル各社へ切り込んで行くきっかけにはなると思うが、それには時間もかかる為優先事項ではない。
▪️弊社の得意分野である不織布への印刷に寄与しない
弊社が圧倒的に優位にある不織布への印刷を拡大していくという会社としての方向性や、自分自身のやりたいことと方向性が異なる。(個人的な趣味に合致しているだけ)
▪️お客様にはすでにベトナムで縫製を委託する仕入れ先があり、私が同様の委託先を構築したとしても、価格だけの話にしかならないし、それほどお客様にアピールできるものではない
勿論私の個人的な興味が仕事に活かせるので、素材や加工についての提案力では優位に立てるが、ただそれだけだ。
例えるなら、実はそれほどの必要とされているわけではないのに、一人の女性にしがみついている情けない男性のような状況なのかもしれないとさえ感じている。
何か達成したい目的があり、それに向かって盲目的に進む時、大きな推進力が生じる。目的は達成できずとも大きく前に前進することができるし、かけがえのない経験になる。しかし一旦そこに迷いが生じた時、それでも同じように進むのか、或いは別の道を検討するのか、それは直近の「感情的にやりたいこと」ではなく、もう少し長期的且つ客観的な視野に立って、自分のやりたいこと、なりたい自分と照らし合わせて判断すべきだ。
お客様の評価を得たいし、目先の売り上げも欲しい。ただし、企業として見た場合、今回も盲目的に突っ走っても一時的な成果にしかならない。であるなら今後のことも含め、今うちの独自技術を最大限活かしつつ、お客様の要望にも応えられるような提案を、ダメでもともとでも、真剣に考えることの方が将来的な実りが多いのではないか?そんな風にも感じられる。